第一工業大学 社会・地域連携センター

『先端的現代物理講座』実施報告

『先端的現代物理講座』実施報告

 

『先端的現代物理講座~素粒子物理学から現代宇宙論まで~』と題した公開講座のシリーズを4月から8月にかけて、かごしま県民交流センターで実施しました。理論物理学(素粒子物理学)が目指している宇宙のすべてを説明できる「究極理論」の探求過程とその最有力理論が導く現代の宇宙像について解説しました。

「究極理論」とは、すべての物理法則を最もミクロなレベルから導くことができる根源的な基礎理論のことです。加速器を使って高速の粒子を衝突させると、粒子を構成する素粒子同士が衝突することになり、ミクロな物理過程を調べることができます。すなわち、極めて高いエネルギーにおける物理法則を得ることができれば、原理的にはすべての物理法則をそこから導くことができるはずだという要素還元的な考え方です。

素粒子物理学は、ミクロな物理現象を記述する量子力学を高エネルギーの場合にも成り立つように一般化した「場の量子論」を使って記述されます。しかし、当初、場の量子論で物理量を計算するとすべて無限大になってしまうという“発散の困難”がありました。この困難を回避するために「くりこみ理論」が導入され、重力以外の力の理論はくりこみ可能な「標準模型」で記述でき、実験結果を非常によく説明できることがわかりました。しかし、標準模型に重力を組み込もうとすると、くりこみ不可能な理論になってしまうのです。長年数々の模型が検討されましたが、現在ただ一つだけ発散の困難を回避できる理論が見つかっています。それが「弦理論」です。

弦理論は、素粒子は点状の粒子ではなく“ひも”が振動していると考えます。それは、点粒子の軌跡の「世界線(1次元)理論」を、ひもの軌跡の「世界面(2次元)理論」に拡張した場の量子論です。ところが弦理論はわれわれが認識している3次元空間の理論としては成り立たず、それ以上の余剰次元を持つことを要請します。この余剰次元空間(カラビ‐ヤウ多様体)の多様性から、弦理論には無数の多様な解(「ランドスケープ」と言われる)があり、標準模型はその中の一つの解にすぎないようなのです。これは、標準模型が唯一の解として必然的に導かれるような究極理論を求めてきた研究者たちの夢と真逆の結果です。

もっとも、5つのバージョンを持つ弦理論を統合するとされるM理論は定式化されていないばかりか、弦理論の非摂動論的性質の全容も明らかになっていないので、いまでも唯一の解の存在を夢見ている研究者もいます。しかし、近年は無数の解を持つ「ランドスケープ」を認めざるを得ないと考える研究者が多くなりました。

さらに、「永久インフレーション理論」という現代の初期宇宙理論と弦理論を合わせて考えると、無数の多様な宇宙が際限なく出現し、我々の宇宙(ユニバース)はその無数の多宇宙(マルチバース)の中の一つに過ぎないとする「マルチバース」といわれる宇宙観が導かれます。

一方、理論的可能性の中で、我々の宇宙の物理法則は私たちのような生命が誕生できるように極めて恣意的に微調整されているように見えるという奇妙さ、すなわち「微調整問題」と言われる奇妙さが長年研究者たちの頭を悩ませてきました。しかし、様々な宇宙が無数に存在するのであれば、生命が存在できるような宇宙も少なからずあり、そのような宇宙だけがそこに含まれる生命によって観測されるのだとする「人間原理」によって、微調整問題に科学的な説明を与えることができるようになります。

今回の講座は、高校の物理の先生のリクエストがきっかけで実現し、物理を専門的に学んだことのある理系の先生方の参加もあり、あえて数式も使って、天下り的な説明にならないよう努めました。この奇想天外な宇宙観が、いかに必然的な過程を経て生まれてきたのかを、味わっていただけたとしたら幸いです。

 

航空工学部教授 古川 靖

 

≪受講者アンケートの紹介≫(一部抜粋)

 

〇理論の大枠が良くわかった。この講座をもとにして、細かなところを詰めていきたい。(50代・男性:高等学校教員)

〇とても勉強になった。このような講義を、教員免許更新講習で受けたかった。(50代・男性:高等学校教員)

〇もともと文系なので全く分野違いではあったが、このように、一般向けに公開してくれる講座は大変ありがたい。(40代・女性:自営業)

〇まったく知らない世界だったが、少しずつわかってきた。ネットなどで読んでいた話が、なるほどこういうことだったのか、と理解することができて嬉しい。(50代・女性:自営業)

最終回の内容

最終回の内容

 

最終回の様子

 

Contents